2021年 独立選抜書展 会員 2021年 独立選抜書展 会員 塩野 玄機 少年時 黝い石に夏の日が照りつけ、庭の地面が、朱色に睡つてゐた。地平の果に蒸気が立つて、世の亡ぶ、兆のやうだつた。麦田には風が低く打ち、おぼろで、灰色だつた。翔びゆく雲の落とす影のやうに、田の面を過ぎる、昔の巨人の姿 −夏の日の午過ぎ時刻 誰彼の午睡するとき、私は野原を走つて行つた……私は希望を唇に噛みつぶして私はギロギロする目で諦めてゐた……噫、生きてゐた、私は生きてゐた! 前へ 一覧へ 次へ